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大きな地震が起きたあと、最初に考えるのは命を守ることです。
揺れから身を守り、家族の安否を確認し、安全な場所へ避難する。
それが何よりも優先されます。
しかし、災害による危険は、揺れが収まったら終わるわけではありません。
過去の大規模災害では、避難中の住宅を狙った空き巣、避難所での置引き、支援者や業者を装った犯罪、女性や子どもへの性被害が実際に問題となってきました。
私のパートナーは、災害が起きた際に被災地へ行くことがある仕事をしています。
その関係で防犯について聞く機会があり、
「被災地へ来るのは、善意の人だけとは限らない」
という話を耳にすることがあります。
もちろん、被災地で活動する警察、消防、医療関係者、自治体職員、支援団体、ボランティアの多くは、人を助けるために行動しています。
県外ナンバーの車や、見慣れない人を見ただけで、犯罪者だと決めつけるべきではありません。
それでも、混乱に乗じて犯罪を行う人がいることも事実です。
この記事では、過去の熊本地震や能登半島地震の教訓をもとに、大地震後に注意したい犯罪と具体的な防犯対策を解説します。
怖がらせるためではありません。
知らなかったことで被害に遭う人を、一人でも減らすための注意喚起です。
大地震後に犯罪が起こりやすくなる理由
地震によって多くの住宅が損壊すると、住民は避難所や親族宅などへ移動します。
住宅街から人が少なくなり、ドアや窓が壊れたままの家、施錠できない家、長期間無人になる家が増えます。
また、被災地には全国から多くの支援関係者が集まります。
普段は見かけない人や車が地域にいても不自然ではないため、不審な人物を見分けにくくなります。
停電や通信障害によって、防犯カメラや街灯が十分に機能しない場合もあります。
警察や消防も、人命救助、行方不明者の捜索、交通整理などを優先しなければなりません。
このような平常時とは異なる環境が、犯罪を企む人に利用されることがあります。
災害時に覚えておきたい5つの防犯行動
すべてを覚えるのが難しい場合は、まず次の5つを意識してください。
- 一人で行動しない
- 相手の氏名と所属を確認する
- 確認できない人を家に入れない
- その場で契約や支払いをしない
- 違和感を一人で抱えず周囲と共有する
特別な防犯用品がなくても、この5つを意識するだけで防げる被害があります。
熊本地震の経験から作られた防災防犯マニュアル
熊本県警察は、2016年の熊本地震や令和2年7月豪雨などで被災者から寄せられた意見をもとに、女性目線の防災防犯マニュアル「防災女子」を作成しています。
このマニュアルでは、大規模災害時には傷害事件や貴重品の盗難だけでなく、わいせつ行為などの性的犯罪が起こるおそれがあるとされています。
また、女性だけではなく、男児を含む子どもも被害に遭いやすいことが示されています。(熊本県庁)
熊本県警察が呼びかけている主な対策は、次のとおりです。
- 暗い場所や死角を避ける
- できるだけ複数人で行動する
- 自宅へ一時的に戻る際も警戒する
- 子どもを大人が交代で見守る
- 犯罪に遭いそうなときは大声で助けを求める
- 避難所にプライベート空間を設ける
- 女性の意見を避難所運営に取り入れる
避難所だけではなく、被災した自宅へ荷物を取りに戻る際にも注意が必要です。
自宅の中に不審者が入り込んでいる可能性も否定できないため、可能であれば一人では戻らないようにしてください。
家の周囲やドア、窓に異変を感じた場合は、自分で中を確認せず、安全な場所から警察へ連絡しましょう。
避難所での性被害を防ぐために
避難所は、命を守るために必要な場所です。
一方で、多くの人が仕切りの少ない空間で生活するため、プライバシーを確保しにくいことがあります。
トイレ、更衣室、入浴場所、物干し場などが居住スペースから離れていたり、通路が暗かったりする場合もあります。
特に注意したい場所は次のとおりです。
- 夜間のトイレ
- 更衣室
- 入浴場所
- 物干し場
- 物資置き場
- 駐車場
- 暗い通路
- 建物の裏側
- 車中泊をしている車の周辺
これらの場所へ移動するときは、可能な限り複数人で行動してください。
女性だけでなく、子どもも一人にしないことが大切です。
女の子に限らず、男の子も性被害の対象になる可能性があります。
加害者は見知らぬ人だけとは限らない
「知らない人にだけ注意すればよい」と考えてしまいがちですが、実際はそうとは限りません。
過去の災害に関する調査では、見知らぬ人だけでなく、避難所の住人、顔見知り、親族、避難所運営に関わる人、支援者などによる被害も報告されています。
支援物資を配る立場や、避難所内で発言力を持つ立場が悪用されることもあります。
「知っている人だから」
「避難所を運営している人だから」
「支援に来ている人だから」
それだけで安全だと判断しないことが重要です。
ただし、すべての支援者を疑う必要はありません。
相手の肩書きだけを信用するのではなく、氏名、所属、身分証、受付証などを確認するという意味です。
子どもに具体的に伝えておきたいこと
子どもには「知らない人について行かないで」と伝えるだけでは、十分でない場合があります。
災害時に実際に使われる可能性のある言葉を挙げ、具体的に説明してください。
例えば、
「物資をあげる」
「お母さんが呼んでいる」
「少し手伝って」
「空いている場所がある」
「車で送ってあげる」
と言われても、一人ではついて行かない。
必ず保護者や周囲の大人に確認する。
移動するときは、できるだけ複数人で行く。
ここまで具体的に伝えておくことが大切です。
また、子どもの遊び場を用意する場合も、大人が交代で見守れる環境をつくりましょう。
性被害を本人の注意不足にしない
注意喚起をするときに、絶対に間違えてはいけないことがあります。
被害を防ぐ責任を、女性や子どもだけに負わせてはいけません。
「一人で行ったから悪い」
「警戒していなかったから悪い」
「こんな非常時に騒がないで」
このような言葉を、被害に遭った人へ向けてはいけません。
どのような状況であっても、悪いのは加害した側です。
本当に必要なのは、本人に気をつけさせるだけではなく、加害しにくい避難所をつくることです。
具体的には、次のような環境整備が必要です。
- 男女別のトイレ、更衣室、入浴場所を設ける
- 居住スペースに間仕切りを設置する
- 女性や子どもが安心して過ごせる場所をつくる
- トイレまでの通路や死角に照明を設置する
- 夜間の見回りを複数人で行う
- 女性も避難所運営に参加する
- 人目を気にせず相談できる場所をつくる
- 相談窓口をトイレなどにも掲示する
2016年の熊本地震後には、避難所への間仕切りの設置、女性用品をトイレへ置く工夫、女性専用スペースの開設、DV被害者に配慮した避難者名簿の運用などが行われました。(男女共同参画局)
今回の熊本地震についても、熊本県は2026年7月29日、避難所チェックシートと性暴力被害防止資料を活用し、安全・安心に配慮した避難所運営を行うよう案内しています。(熊本県庁)
空き巣・置引きを防ぐための対策
災害時は、避難中の住宅や店舗を狙った空き巣が起こることがあります。
避難所内でも、財布やスマートフォンなどを狙った置引きに注意が必要です。
避難時は命を守ることが最優先ですが、安全に行える範囲で次の対策をしてください。
- 自宅や車を施錠する
- 現金、通帳、印鑑、身分証を持ち出す
- 常用薬やお薬手帳を持つ
- 避難所で財布やスマートフォンを放置しない
- 車内に貴重品を見える状態で置かない
- 不審な人物や被害の情報を近隣住民と共有する
令和6年能登半島地震では、石川県内で避難中の住宅への空き巣や避難所での置引きなど、災害に便乗した犯罪が確認されました。
2024年3月7日までに把握された件数は59件で、輪島市内の住宅から指輪などを盗んだとして、4人が検挙された事例もあります。(警視庁)
「災害時に空き巣まで来るはずがない」と考えず、可能な範囲で備えておきましょう。
SNSに留守だと分かる情報を載せない
SNSは、家族の安否確認や災害情報の収集に役立ちます。
一方で、投稿内容によっては、自宅が無人であることを第三者へ伝えてしまう場合があります。
次のような投稿には注意してください。
「家族全員で○○避難所にいます」
「しばらく自宅には戻れません」
「親戚の家へ避難しました」
住所を直接書いていなくても、過去の投稿、家の外観、表札、周辺の建物、位置情報などから、自宅を特定される可能性があります。
安否を知らせる場合は、投稿の公開範囲を限定することも検討してください。
自宅の場所と不在期間が同時に分かる発信は避けましょう。
支援者や業者を装う犯罪に注意
災害後には、ボランティア、公的機関の職員、点検業者などを装って住宅へ近づく人が現れる可能性があります。
ただし、県外ナンバーの車や見慣れない人を、一律に不審者と判断してはいけません。
被災地には、全国から警察、消防、医療関係者、自治体職員、民間企業、支援団体が集まります。
判断するときは、出身地や見た目ではなく、相手の行動を確認してください。
次のような行動がある場合は注意が必要です。
- 所属団体や氏名を答えない
- 身分証や受付証を見せない
- 頼んでいないのに家へ入ろうとする
- 家族構成や留守の時間を聞く
- 現金や貴重品の保管場所を聞く
- 家や車内を必要以上に撮影する
- 無料点検を口実に家の中を確認しようとする
- 「今すぐ修理しないと危険」と契約を急がせる
- 義援金や修理代をその場で現金請求する
不審に感じた場合は、その場で相手を問い詰める必要はありません。
「一度確認します」と伝えて帰ってもらいましょう。
その場で家へ入れない。
書類へ署名しない。
現金やカードを渡さない。
相手が名乗った自治体や団体の公式な連絡先を自分で調べ、確認してください。
相手から渡された名刺や電話番号だけを信用しないことも大切です。
不審な人物や車を見かけたときの対応
不審な人物を見つけても、自分で追いかけたり、問い詰めたりしないでください。
相手が犯罪を目的としている場合、自分が危険にさらされる可能性があります。
安全な場所から、可能な範囲で次の情報を記録しましょう。
- 見かけた時間と場所
- 人数
- 服装や特徴
- 車の色や車種
- ナンバー
- 移動した方向
- どのような行動をしていたか
記録した情報は、避難所の責任者や警察へ伝えてください。
根拠が不確かな段階でSNSへ投稿すると、無関係な人を犯罪者扱いしてしまったり、誤情報が拡散されたりするおそれがあります。
まずは警察や自治体へ相談しましょう。
DVやストーカーから避難している人への配慮
避難者名簿は、避難所運営や家族の安否確認に必要です。
しかし、DVやストーカーから逃げている人にとっては、避難先を知られる危険があります。
熊本県警察のマニュアルでも、避難者名簿が加害者の目に触れる可能性を考え、個人情報の開示に同意するかどうかを明記するなど、記載方法に注意するよう呼びかけています。(熊本県庁)
避難所を運営する側は、次の点に配慮してください。
- 避難者名簿を誰でも見られる場所へ置かない
- 安否確認への回答可否を本人へ確認する
- 本人の許可なく避難先を第三者へ伝えない
- DVやストーカー被害に関する相談を慎重に扱う
- 「家族だから」という理由だけで居場所を教えない
家族や交際相手から逃げている人もいます。
善意で伝えた情報が、被害につながる可能性があることを知っておきましょう。
災害時の相談先
今まさに犯罪が起きている、命や身体に危険がある場合は、110番へ通報してください。
緊急ではない不審者や防犯の相談
警察相談専用電話:#9110
性犯罪に関する警察への相談
性犯罪被害相談電話:#8103
性犯罪・性暴力被害に関する総合的な相談
ワンストップ支援センター:#8891
子どもの被害や虐待が疑われる場合
児童相談所虐待対応ダイヤル:189
電話をかけるのが難しい場合は、避難所の相談員や信頼できる支援者へ、
「一人では電話できないので、相談先につないでほしい」
と伝えてください。
被害を訴えた人を責めないでください
被害を打ち明けた人に対して、
「こんな非常時に騒がないで」
「避難所の雰囲気が悪くなる」
「勘違いではないの」
「あなたにも原因がある」
と言わないでください。
災害時は、避難所から追い出されたら行く場所がない、物資を受け取れなくなるかもしれない、周囲に知られたくないなどの理由から、被害を訴えにくくなります。
打ち明けられたときは、否定せずに話を聞き、安全な場所へ移動することを優先してください。
本人の許可なく、詳細を周囲へ話さないことも大切です。
防犯とあわせて、平常時に確認しておきたい防災用品
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災害が起きてから必要なものを集めるのは簡単ではありません。
まずは自宅にある防災用品を確認し、足りないものだけを少しずつ準備しておくと安心です。
特に確認しておきたいものは、
・飲料水と非常食
・携帯トイレ
・懐中電灯や防災ラジオ
・モバイルバッテリー
・常用薬や衛生用品
・家族構成に合った防災セット
などです。
防災セットを選ぶ場合も、セットを購入して終わりではありません。
家族の人数、持病、アレルギー、乳幼児や高齢者、ペットの有無に合わせて、中身を追加・入れ替えることが大切です。
必要なものをまとめて準備したい方へ
防災用品を一つずつそろえるのが難しい場合は、必要なものがまとめられた防災セットから確認する方法もあります。
購入前に、人数、保存期間、重さ、非常用トイレの回数、食品のアレルギー表示などを確認してください。
非常食を見直したい方へ
非常食は、賞味期限だけでなく、自分や家族が実際に食べられる内容かも大切です。
アレルギーへの対応、調理に必要な水や熱源、食べ慣れた味かどうかも確認しましょう。
停電時の電源対策を考えたい方へ
スマートフォンの充電や情報収集のために、モバイルバッテリーやポータブル電源が役立つ場合があります。
ポータブル電源は高額な商品も多いため、容量、使用できる家電、充電方法、保管場所を確認してから検討してください。
※上記にはアフィリエイト広告が含まれます。購入を急ぐ必要はありません。まずは自宅にある備えを確認し、足りないものだけを検討してください。
まとめ|善意を信じることと無防備でいることは違う
災害時に、人を疑いたくないと感じるのは自然なことです。
被災地で活動している大部分の人は、誰かを助けるために行動しています。
防犯とは、見た目、出身地、車のナンバーだけで人を決めつけることではありません。
相手の行動を見る。
所属を確認する。
一人で行動しない。
その場で契約や支払いをしない。
違和感を周囲と共有する。
善意を信じることと、無防備でいることは違います。
被災地にいる家族や知人がいる場合は、次の3つだけでも伝えてください。
「一人で行動しないで」
「留守だと分かる投稿はしないで」
「確認できない人を家へ入れないで」
その一言が、誰かを被害から守るきっかけになるかもしれません。
この記事が、必要な方へ届くことを願っています。
参考資料・出典
この記事は、警察庁、熊本県警察、内閣府男女共同参画局などが公開している情報を参考に作成しています。
熊本県警察「災害への備え」
平成28年熊本地震や令和2年7月豪雨などの災害対応から得られた教訓や、防災・防犯に関する資料が掲載されています。
女性や子どもの視点を取り入れた防災防犯マニュアル「防災女子」も、こちらのページから確認できます。
内閣府男女共同参画局「平成28年(2016年)熊本地震対応」
平成28年熊本地震における避難所運営、女性専用スペース、間仕切り、女性用品の配布、相談窓口など、男女共同参画の視点を取り入れた対応について掲載されています。
内閣府男女共同参画局「男女共同参画の視点による平成28年熊本地震対応状況調査」
熊本地震で避難所を運営した自治体への調査結果や、女性の視点を取り入れた避難所運営、授乳室、男女別トイレ、更衣室などの取り組みがまとめられています。
内閣府男女共同参画局「熊本地震を経験した育児中の女性へのアンケート報告書」
熊本地震を経験した子育て中の女性への調査を通して、避難生活で困ったことや、女性・子どもへの支援に必要な視点がまとめられています。
内閣府男女共同参画局「避難所キャラバン報告書」
熊本地震後の避難所を巡回し、プライバシーの確保、女性用品の配布方法、相談支援など、避難所の環境改善に取り組んだ事例が紹介されています。
警察庁「令和6年能登半島地震に伴う警察活動等」
令和6年能登半島地震における警察活動、被害状況、防犯対策、災害に便乗した犯罪への対応などが掲載されています。
警察庁「警察活動と被害状況」
地震や豪雨など、各災害における警察活動と被害状況を確認できる一覧ページです。
警察庁「性犯罪被害相談電話 #8103」
性犯罪の被害について、各都道府県警察の相談窓口へつながる全国共通の短縮ダイヤルです。
内閣府男女共同参画局「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター #8891」
性犯罪・性暴力の被害について、医療、心理、法律などの支援につながる相談窓口です。
こども家庭庁「児童相談所虐待対応ダイヤル 189」
子どもの被害や虐待が疑われる場合に、近くの児童相談所へつながる全国共通ダイヤルです。

※災害の被害状況や相談窓口の情報は、更新される場合があります。最新情報は、警察、自治体、内閣府などの公式発表をご確認ください。


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